わたしはロランス

Laurence Anyways

 

 映画の予告編を見ていると、その時一番気になっていた楽曲が流れてきた。

 この曲を使っているなんて・・・。

 重たそうなテーマにしばらく悩んだけど鑑賞決意。

 結果、今年のベスト。

 

 1989年。

 モントリオールに住む国語教師のロランス(メルヴィル・プポー)は、情熱的な赤毛の恋人フレッド(スザンヌ・クレマン)と二人で暮らしていました。

 

 ある日、ロランスはフレッドにある告白をします。

 「これ以上言わずにいるのは耐えられない・・・苦しい・・・。

  僕は、女になりたい!」(と言ったと思われる)

 

 激しく動揺して、ロランスを深く傷つけてしまうフレッド。

 

 しかし、ロランスを失いたくないフレッドは、「彼女」を受け入れる選択をします。そして、ロランスが、社会の中で女性として生きていけるよう手助けをしていきます。

 

 学校に、初めて女装をしていくという最初の試練も無事に乗り越え、ふたりの関係も順調にいくかと思われましたが・・・。

 

 

 時代設定は、1989年から1999年の10年間。

 この時代は、一般人の「性的嗜好」や「性のボーダーライン」に関して開かれ始めたばかりで・・・まだ移行している最中であり・・・つまり、すごいエネルギーが流れていたともいえるかと。

 

 

 自分は先進的女性と思っていたフレッドでさえ、あがき苦しみ遂には思いもかけない保守的な選択をしてしまうという展開は・・・その時代を生きた人間には、非常によく理解できてしまう。悲しいことに。

 

 また、ロランスの保守的(常識的)な両親との確執も、共鳴できる。 母親との関係が一変するくだりは、一見の価値あり。

 

 心に忠実に自分らしく生きようとするロランスと、自分の性(さが)に正直な幸せを夢見るフレッド。どちらにも共鳴できます。

 

       そして、    愛って、なんだろう。


 

 そんな、新しくも普遍的な映画を作ったのは、2012年制作当時弱冠23歳のグザヴィエ・ドラン。

 

 監督、脚本、衣装、編集、音楽をすべて兼ねてのこの出来栄えは、まさに鬼才。

 ペドロ・アルモドバル監督や、フランソワ・オゾン監督の作品を観た時の衝撃を思い出す。

 

 その圧巻の映像美。光と影、粗野な力強さとシンプルな美しさ、時を自在に操る大胆さと繊細さ。

 

 音楽の選曲も素晴らしい。私が、気になった曲は、クレイグ・アームストロングの名盤「THE SPACE BETWEEN US」(1998)からの「Let‘s go out tonight」。映画音楽のために作ったのではないのに、ぴったりすぎます。

 

 映像時代の申し子のような手法ではあるが、ストーリーに説得力があるのは、脚本が優れているから。

 

 

 あがき苦しむことに疲れ果てていた私たち世代には、思わぬ贈り物をもらった気分です。

 

                       (2014.10.19)

 

 

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