キューティー&ボクサー

CUTIE AND THE BOXER

 

 現代美術作家の榎忠さんが、兄貴のように慕っているアーテイスト篠原有司男さん。

 

 通称「ギュウチャン」の出演する映画が、アカデミー賞長編ドキュメンタリ-部門にノミネートされていると聞いて、映画館に行ってまいりました。

 

 篠原有司男さんは、1960年代に日本の前衛美術界において名を残した伝説的なアーテイストです。といっても、最近まで私は全く知らず・・・その存在を知ったのは、2010年の「CHOPPER SHOW」(神戸国際展示場)でのダンボールを使ったバイクの展示を見たときが最初です。

 

 その異形ともいえる派手なバイクに驚きつつ・・「80歳近いのに、ニューヨークで元気にペイント・ボクシング(絵の具をつけたグローブで壁に向かってボクシングスタイルで打つアート)をしている。」という忠さんの説明には、半信半疑でした。

 でもそれは真実でした・・・映画を見たら。

 

 

 

 日本で高い評価を受けた篠原さんは、新天地で新しい挑戦をするため1968年に渡米します。貧乏生活の中活動を続けますが、なかなかアメリカでは認められなかったようです。

 

 そして1972年・・NYに勉強に訪れた画家の卵の乃リ子さんは、篠原さんと瞬く間に恋に落ち・・一緒に暮らし始めます。

有司男さん41歳乃リ子さん19歳の時です。

 

 高い理想とあふれる情熱で結ばれた二人ですが、現実は厳しく・・・子育てや生活のため乃リ子さんは自分の創作活動をやめて、生きていくのが精一杯な毎日を送っていたのでした。

 

 しかし、徐々に自分の創作活動に戻りつつある乃リ子さんは、「キューティー&ブリー」というキャラクターを生み出し、それまでの人生と向き合いながら再び表現者として自信を取り戻します。

 

 新しくアーティストとして歩き出す乃リ子さんと、応援しながらも嫉妬を感じて、意地でも頑張る有司男さん。40年にもなる二人の魂の闘いは、まだまだ続くようであります。

 

 

 まず、有司男さんの声に驚きました。80歳の方とは思えない男らしい話し方に、惚れそうになります。そして、彼独特なペイント・ボクシング・・・映像でも、衝撃的な美しいまでの力強さは堪能できました。本当に伝説とは、こういうことなんだと。

 

 

 しかし、一番衝撃的だったのは乃リ子さんの表情でした。

 

 どれだけ苦労したり絶望したことでしょう。

 

 これを「愛」とか「美徳」とか・・・で片付けられたら、私は逃げ出したと思います。

 

 でも、弱冠29歳のザッカリー・ハインザーリング監督は、そうは描いてはいない。確かに最後はおふたりの「愛」を見つけることができ・・熱い想いで胸がいっぱいになるにしても。

 

 この映画は、日本人アーティスト同士のNY生活という題材を通してではありますが、多くの人が身近に感じるテーマがいっぱい詰まっている短編集のようです。

 

 サラリーマンの方であっても、サラリーマンの妻であっても。

 

 

 上映期間が終わった地域もあるようですが・・・なかなか見ることの少ないドキュメンタリー映画です。機会があればぜひ。

  

 アカデミー賞の行方も気にはなりますが、ノミネートされたことに大きな意味があると思います。

 今後のお二人のご活躍も楽しみにしております。

                        (2014・1・24)

                       

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